書物

喫茶養生記をごぞんじでしょうか?

鎌倉幕府の将軍、源実朝が酒を多く飲み、健康を害していたときがあります。
そのときに良薬と称したお茶とともに「茶徳を誉むる書」として献上されたもの、それが喫茶養生記です。

喫茶書と言われていますが、実際にはお茶による摂生養生を説いた健康書でもあります。
現代にもつながるその健康法とはどのようなものでしょうか。

1 お茶は人倫延命の妙術

「喫茶養生記」の上巻の開巻には、次のように書かれています。

茶也養生之仙薬 人倫延齢之妙術也
山谷生之其地神霊也 人倫探之其人長命也

お茶は健康保持のための良い薬です。茶の木が生育する土地は神霊の地であり、茶を飲む人は長生きができる、という意味です。
そしてこれに続いて古今奇特の仙薬なりと記しています。

お茶は中国から我が国に伝わったものです。中国はもちろん、日本に伝わったときも当初は嗜好品というよりもむしろ不老長寿の薬として珍重されてきたものでした。

もともと中国の古伝説に書かれる帝王、新農によって発見されたと言われています。
この新農は野山を駆け回って人民のために薬草を探し出していましたが、そのときに約70種類の毒草にあたりましたが、いずれもお茶によって解毒したとされています。
このように古くからお茶は毒消しをはじめとした多くの薬効があると信じられていました。

明朝時代の医者、呉継という人が書いた「墨蛾小録」という本には、旅人がたとえ千里の長旅を続けてもこれを飲めば疲れないという「千里茶の処方」がのっています。

これは細茶にカテキン、ハッカを蜜で練り固めて丸薬状にしたものです。
これは中国で長い間疲労回復のためによく用いられており、「茶経」で有名な陸羽の「続・茶経七之事」にも引用されています。

また、平安時代の漢学者で漢詩文家の都良香は、お茶を飲むと心の憂さが晴れ、病を取り除き、身体の調子を整えてくれると詠んでいます。

2 お茶は五臓を健全にする

2-1 五臓とは

健康であるということは、内臓疾患すべてー五臓六腑がきちんとバランスよく働いていなければいけません。

胃腸の働きが悪いと便秘、消化不良、下痢などが繰り返されて栄養の摂取は悪くなります。

肝臓は各種の栄養素の貯蔵、分解、排泄といった化学工場的な役割をするとともに、人体に有害な物質を解毒する大切な器官でもあります。

この肝臓の働きが弱るとビタミンA、Kが体内でうまく合成、吸収できなくなり、脂肪などの栄養素も分解されにくくなります。また、体内に入った有害物質も分解されにくくなります。

腎臓は血液中から老廃物質やら有害物質を取り出し、尿をつくる働きをしています。
この働きがうまくいかなくなると老廃物が体外に排泄されにくくなり、高血圧になったり心臓に負担がかかったりします。

心臓は言うまでもなく血液を全身に送り込むポンプの役目をしているところです。
働きが悪くなれば不整脈のほか、狭心症、心筋梗塞などの病気を引き起こします。

その他、肺の機能が低下すると肺気腫を起こしたり、脾臓の働きが悪くなれば造血能力がおちます。
膵臓の機能が低下すると消化活動全体に障害が発生し、糖尿病なども引き起こします。

私たちの身体はこれらの臓器がスムーズに活動し、それぞれがバランスよく働いていなければ健康を守ることはできません。

2-2 五臓の好む味とは

「喫茶養生記」上巻は、この五臓の和合を次のよう説いています。

一に肝の臓は酸味を好み
二に肺の臓は辛味を好み
三に心の臓は苦味を好み
四に脾の臓は甘味を好み
五に腎の臓は鹹味を好む

そしてこの五臓を木・火・土・金・水の五行にあてはめ、調和してこそ健康が保たれると説いたのです。

人間の五臓はそれぞれ異なる味を好みますが、どれか一つだけを多く摂取すると体のバランスが崩れ、不健康や病気につながると考えたのです。

3 お茶は心臓を健全にする

心臓が重要な器官であることは小さな子どもでも知っています。

栄西は「心臓を健全にする妙術は、ほかでもなく茶を飲むことだ」と記しています。

先ほど述べたように、五臓の好む味はそれぞれ異なっています。
そのため、どれか一つの臓が好む味だけをとるとバランスを崩してしまうと記していますが、その中でも心臓については特に注意を払っています。

酸味、辛味、甘味、鹹味は日常生活の中で比較的取りやすいと言えます。
しかし、心臓が好む苦味は自然にとることが難しいものです。

そのため、栄西の説によれば心臓以外の四つの臓が強くなる分だけ心臓が弱まって心臓病になるというわけです。

栄西の生きていた時代の日本人は脚気衝心といわれる心臓脚気が多く、長く患って衰弱して死ぬ人が多かったのです。
栄西は、これは日本人が中国人のようにお茶を飲む習慣がないからだと言っています。

そのため五臓が不調で心身が不快なときはお茶を飲むのが良いとされています。
そうすれば心臓の調子が良くなり、全身が快方に向かうとされるのです。

ちなみに五味は、

酸味は、みかん、橘、柚、酢
辛味は、しょうが、こしょう、はじかみ
苦味は、茶、青木香
鹹味は、塩

からとれるとされ、苦味が最高位とされています。

これはお茶の成分の一つ、カフェインの作用です。
カフェインは気分をリラックスさせ、心臓の鼓動を安定させる効果があることが科学的にも証明されています。

4 お茶は酒の酔いを覚まし、眠気を抑える

ハーブティー

「喫茶養生記」はアルコール中毒であったと考えられる源実朝の酒毒を治すために茶と共に進呈されたことは有名です。

養生記には、いくつもの典籍から引用してその効用を列記しています。

「だいたい茶を飲めば、酒の酔いを覚まし眠気を起こさせない。眠るというのは万病の根源であり、言い換えれば無病であれば眠ることはない」(広雅)

「真茶を飲めば、睡眠を少なくさせる。眠る人は知能の働きが鈍っているのである」(博物誌)

眠りは知能の働きが鈍ることにより起こるわけですが、お茶を飲めばその眠りを少なくさせる、というわけです。

「茶を煎じて飲めば人を眠らせない。眠らないようにすれば病気にもかからない」(桐君録)
「午茶は能く、眠りを散ず」(白氏文集)

午とは食事のことで、食後にお茶を飲むと眠気を払う、というわけです。
そして栄西は、
酒を飲めば咽が渇いて飲を引く
この時はただ茶を飲むべし、他の湯水は飲むに及ばず

と、お酒を飲んだ後はお茶を飲むようにすすめています。

お酒を飲むと酔います。酔うのはアルコールによって大脳が一時的にマヒした状態です。
お茶に含まれているカフェインは中枢興奮作用を起こし、大脳の働きを促してマヒした状態を正常に戻します。

また、マヒ状態が治っても二日酔い状態が残ることがあります。
二日酔いは大量のアルコールを飲んだために、その分解物であるアセトアルデヒドが血液中に急激に増え、体外に排出されないために起こる一種の急性アルコール中毒です。
このアセトアルデヒドは毒性物質ですが、この毒性物質を分解するにも解毒作用を持つお茶は効果があるのです。

そしてお酒を飲むと眠くなりますが、お茶のカフェインの作用で眠気をとばすことで意識をはっきりさせることができます。さらに、お茶の利尿作用も酔いを覚ますのに役立ちます。

5 まとめ

こうして栄西が800年以上も前に注目して力説した茶の薬効は現代において科学的に証明されているのです。
こうしたお茶の薬効が記された「喫茶養生記」は健康を保持していくのに必要な情報に溢れているのです。